金融サービス業界では、ビッグデータやAIを採用する企業が増加しています。しかし、依 然として多くの企業が、データタイプ、プライバシー、スケーリングの面で重大な課題を抱えているのが実情です。世界有数の金融機関クレディ・スイス社は、Azure Databricksなどのクラウドベースのオープンプラットフォームを活用することで、データの標準化を進めてこの課題に対応しています。また、組織全体でのオペレーション効率の向上と大規模データを対象とした機械学習の高速化に取り組んでいます。Databricksの導入により、クレディ・スイス社はデータの活用とその分析を通じたデジタル変革を推し進めることに成功しており、製品の市場投入までの期間短縮や業務効率の一層の向上が見込まれています。
人員の専門性と手動業務への依存からの脱却
金融機関(FSI)が常に最大の目標として掲げているのは、顧客の求める高い水準を満たすことです。しかし、近年の顧客の要望に応えるには、老朽化したシステムや人間関係を基本としたビジネスモデルなどが制約の要素となっており、厳しい事業運営を余儀なくされています。そのような中で、クレディ・スイス社は、膨大な量の顧客データと取引データの活用を目指す方針を固め、従来のビジネスモデルから脱却し、デジタル化を進めたデータ主導型のアプローチを採用する計画を立てました。
「銀行業界は元来、人を中心として発展した業界です。緊密な人間関係こそが取引につながり、専門家による判断が意思決定を左右します。顧客が求めるサービスを今後も維持していくためには、従来のビジネスモデルを進化させ、最先端のデータ活用技術を導入する必要がありました。」(クレディ・スイス グローバル市場責任者・取締役 アヌラグ・セーガル氏)
しかし、クレディ・スイス社は、手動での作業に依存した業務プロセスやオンプレミスシステムでの複雑なスケーリングが妨げになっている課題に加え、機械学習やAIに基づいた「スマート」な意思決定を行うためのデータの内容にも問題を抱えていました。セーガル氏によれば、「当時は金融市場や取引価格に関するデータしか利用できず、顧客に対して独自の情報に基づいた助言を行う能力が限定されていた」のです。
クレディ・スイス社が必要としたのは、データ分析を通じて、事業の拡大につながる新しいアイデアを生み出せる統合データ分析プラットフォームでした。モデルの実験と迅速なプロトタイピングを可能にし、商業利用可能なアイデアの製品化や事業化を行える環境が求められていました。
迅速かつ効率的にアイデアを実現
新しいアーキテクチャでは、スケーリングをオンデマンドで行い、多様なワークロードに対応できることが前提とされました。また、複数のクラウドをサポートして特定のクラウドに依存しないようにする柔軟性や、機械学 習やAIの活用を想定した次世代技術をサポートするための拡張性も必要とされました。その結果クレディ・スイス社は、基幹システムをクラウドベースのオープンプラットフォームに移行することを決定し、データ、AI、機械学習、デジタル技術のエコシステムを備えたAzure Databricksをコア分析プラットフォームに採用しました。
セーガル氏は次のように述べています。「機械学習は私たちの事業推進の中心となっており、データ主導型の組織を目指す上で、Databricksは重要な部分を占めています。Databricksを使用したデータ分析でビジネスが成長しました。モデルの実験と迅速なプロトタイピングが可能になり、商業利用に値するアイデアの製品化や事業化を実現しています。」
実用的なデータを抽出するには、膨大なデータを処理できるインフラストラクチャが必要です。セーガル氏の部門は、Databricksのクラスター管理機能を使用してクラスタのプロビジョニング作業を簡素化し、社内外の膨大なデータを迅速に処理できるようにすることで、必要な条件をクリアしています。インフラストラクチャによる制限が解消されたことで、自社データやサードパーティのデータだけでなく、リアルタイムでの構造化/非構造化データのストリーミングも含めたさまざまなデータを活用できるようになりました。
さらに、データ収集から分析に至るフローが最適化された段階で、MLflowを導入して機械学習モデルのライフサイクル管理を効率化しました。その結果、モデルのテスト、試行、本番環境への配置がより短時間で行えるようになりました。「私たちの事業の大半は機械学習とAIに関連しています。モデルのライフサイクル管理の改善を図るうえで、MLflowの利用が不可欠です。MLflowを導入したことで、モデル生成や分析の結果を視覚化できるようになりました」とセーガル氏は述べています。
データとAIの活用による新次元の金融サービス
現在、クレディ・スイス社はデータとその分析を事業の中心に据えています。データから得た洞察を活用して、新しいグローバル市場への参入や、顧客に支持される新しい製品サービスの開発を実現しています。
たとえば、顧客へサービス提供のためのリアルタイム製品レコメンデーション(自社の営業部門向け)、Tableauとの統合でビジネスインテリジェンスを提供するためのデータ分析(ヘッジファンドや投資運会社などのビジネスユーザー向け)、クライアントに適切な投資判断を促すためのレコメンデーションや異常検知(証券トレーダー向け)など、さまざまなステークホルダーに向けたサービスを提供できるようになりました。
また、Databricksは、オルタナティブデータやESGデータなどの新しいデータタイプにも対応しており、クレディ・スイス社でもそれらのデータ分析が可能になりました。最新のデジタル技術とデータ駆動型のインテリジェンスを活用できるようになり、ビジネスの効率性と成長を促進する新製品やサービスの開発の可能性を創出しています。
セーガル氏は最後に次のように述べました。「クレディ・スイスでは、事業のあらゆる場面に機械学習とAIを活用することが可能となりました。顧客により良いサービスを提供するうえで、その重要性はますます高まっており、Azure DatabricksとMLflowなしでのビジネスはもはや考えられません。」